審査評

審査にあたられた大友義博、小野月世、両作家審査委員から「審査評」をいただきました。

大友義博

(おおとも よしひろ/画家・日展会員・白日会常任委員)

 

 新型のウィルスが現れてから一年が経った。その影響力は世の中の仕組みや私たちの考え方を瞬く間に変化させてしまうほど。経済対策と感染拡大防止のバランスばかり取り沙汰されているが、文化活動の萎縮も心配されるところだ。そんな最中行われた「jam公募展」の審査だったが、応募点数も前回を上回り、全体のレベルも高い様に感じられた。本展のユニークな点は作品のみでは無く、額縁との調和も審査の対象とすること。審査中も額縁が合う合わないの話で入賞に影響した例もあった。

 

◎大賞 餅田里菜さん『最後の散歩道』

 この作品は身近な景色の中に美を見出したもので、じっくりと鑑賞できる見ごたえのある仕上がりとなっている。タイトルは、目に焼き付けたいと切望する写生の原点と解釈できる。全国何処にでもありそうな車道の風景が、作者の目には特別な場所として捉えられているのが伝わってくる。写真とは違う、写生。つまり生きているものを写すということが実践されていて、絵を描くモチベーションの基本である「現場感」が色濃く現れており、大変好感が持てた。審査後に分かったことだが弱冠22歳との事で、今後が大変楽しみだ。

 

◎審査員特別賞

鵜木政幸さん『おとうふ屋さんのある町角』

 タイトルの通り日常繰り返されているであろう風景。それを単なるスナップ写真になる事なく、滲みや掠れと言った水彩画の持ち味、素材の発色の良さを味方に巧みな技法で表現している。光と影が織り成すコントラストの構成が小気味良く、そのリズム感が最も美しい季節や時間帯の感動を、見事に描きとめている。

白濱政彦さん『母の病院の窓』

 画家は絵になる風景と偶然出会う事もあるものだが、この場所はまさにそうだったのではないだろうか。タイトルから察するに、その偶然出会った風景には日々思い入れが重なっていったかもしれない。また内向きの心を外に解き放ったような一瞬の感動をあらわしているようだ。街の表情を自分の持てる技量を精一杯つかい描き切っているところに好感が持てた。

 

船井移津子さん『小さな三差路』

 心象風景寄りの作品。絵画はモチーフ、画面、自分との三者の関係性で描いていくものだが、この作品は画面と自分とのやり取りに重点をおいている。ともすると独りよがりに陥ってしまう事も多いが、構成力と美しいマチエールによって見るものをこの静かな世界に引き込んでいく。情景画と呼ぶにふさわしい作品。

 

 総評として、コロナ禍の影響かはわからないが、今回は全体的な派手さは無いものの、身近な風景とじっくりと向き合う事で、感動的な作品にまで昇華されたものが多かったことが印象に残った。

 

小野月世

(おの つきよ/画家・日本水彩画会常務理事)

 

 前回に引き続き、審査に携わらせていただきました。前回も力作が多かった印象でしたが、今回は出品数も増えたとのことで、さらに力作揃いでした。コロナ禍の中で作品制作に集中する時間を持った方が多かったのかもしれません。

 大賞の餅田さんの作品は、奇をてらうことなく絵画の基本に立って自然に忠実に描かれています。暖かな日差しと優しい影の色を丁寧に追いながら何気ない落ち葉の道を美しい世界に昇華させている力に感心致しました。20代の若い作家さんの今後の活躍に期待します。鵜木さんの作品はとうふ屋さんの白くはためく暖簾と日傘、青い空が夏の長閑なひと時を表しています。鑑賞者がその場にいるような感覚になる、生活音まで聞こえてきそうな空気感のある作品です。白濱さんの作品は街を俯瞰しながら、どこか夢の世界を見ているようで不思議な魅力がありました。選考後に画題を「母の病院の窓からの愛宕山」と知り、きっとご本人の様々な思いが込められたからこその風景なのだと納得しました。舩井さんの作品はアクリルのマチエールを駆使しながら独特の柔らかいトーンで心象風景を描かれています。画材の可能性を感じさせる美しい作品です。

 今回の審査で、たとえ辛い現実があったとしても、絵を描いたり観たりすることで幸せな心の旅に出掛けられること、この公募展を通じて、全国の絵の愛好者が離れていても絵の力で心の繋がりを持てる機会があることはとても素晴らしいことだと改めて感じました。また、それぞれの地元愛を様々な技法で表現し、楽しい作品を見せて頂き、こちらも幸せな時間を持てました。皆様の次回の出品を心待ちにしております。