第7回 審査評

審査にあたられた大友義博、小野月世、両作家審査委員から「審査評」をいただきました。

大友義博

(おおとも よしひろ/画家・日展会員・白日会常任委員)

 

 今年は全体的に作品の粒が揃っており、レベルが高かったものの、一方で気になったのは写真をそのまま模写しただけのような作品が多く見受けられた点。

 個人的には観光スポットのようなテーマではなく自らの見出した地元の風景や情景を切り取った作品に好感が持てる。

 村上武志さんの『今朝の通学路』は、誰もが共感できる体験を時間の流れを感じさせるような独特のタッチで描いている。はしゃぐ声や行ってらっしゃいの声も聞こえてきそうで、見る者の想像を掻き立てる。キャンバスの中にひとつの現実を創り出した秀作と、大賞に選んだ。

 机貞代さんの『街はずれ』は、まさにご当地風景を切り取った佳作。丹念に細かく描かれた見ごたえのある画面から、この場所への思いが伝わる。陰の中の色合いの表現に注目したい。

 釣健二さんの『秋日和』は、絵ハガキ的なものではなく自分のまなざしで切り取った風景。降り注ぐ光を魅力的なタッチに置き換え清々しい作品となっている。

 西本富雄さんの『猫の居る丘』は、今回写真ベースの作品が多かった中、大変ユニークで目を引いた。偶然とは思えないくらい見事に配置された猫たちと点景人物。朝のほっこりとした空気感も伝わってくる秀作。

 野田泰さんの『みよし野菜の並ぶ朝』は、現代の風景なのだろうが何故か懐かしさの感じられる作品。この時間だからこそ生み出される逆光による明暗の構成を巧みに利用して描かれている。

 

小野月世

(おの つきよ/画家・日本水彩画会理事・白日会会員)

 

 前々回から携わらせていただいていますが、今回もさらに力作が揃う審査となりました。緻密に描かれた作品も多々見受けられ、コロナ禍で出掛けることも少なくなりながら、むしろ身近なものに愛着をもってじっくりと絵に向かわれた方が増えているのかなと感じました。

 大賞の村上武志さんの『今朝の通学路』は、アクリルで描かれたひときわ色どりの美しい作品です。色が多いと画面がうるさくなりがちですが、絶妙に調和のとれた画面に仕上げられたのは作者のセンスの賜物でしょう。ランドセル姿の子供たちとそれを見守る地域の方々との愛情に満ちた明るい空気を感じさせる秀作です。

 机貞代さんの作品『街はずれ』は、小さな商店の軒先を丁寧な筆致で描き、しっかりとその奥行き感、存在感を表現されています。画面構成、光の表現も見事です。作者の対象に対する誠実で愛情に満ちた眼差しを感じます。

 釣健二さんの『秋日和』は、水彩の透明感を活かしながら、強い影とのコントラストで川面の光を印象的に見せています。緑のバリエーションも秀逸で、光の暖かさと影の冷たさがよりこの風景の空気感を際立たせています。行ったことは無いけれどこの感覚は知っていると鑑賞者の情感に訴える作品です。

 西本富雄さんの『猫の居る丘』は、猫やおばあさんが帰宅する少女を静かに迎える田舎の長閑な風景が描かれています。小さな画面に広々とした世界が広がり、見る人の心を吸い込んでゆく大きさを感じさせる作品で、道の形、少女の歩く姿、猫の配置など大きな画面に変えても十分耐えうるような計算され尽くした画面構成は作者の実力の高さを感じます。

 野田泰さんの『みよし野菜の並ぶ朝』は、まだ明けて間もない時間に沢山の野菜がすでに並んでいて何気ない中に日常の人々の営みを静かに思い起こさせる優しい作品です。重い荷物を運んでいるのか、自転車を押しながら歩く後ろ姿もこの物語に大切な点景となっています。

 今回の審査もまた皆さんの愛情溢れる作品を拝見させて頂き楽しい審査となりました。地域の特徴を活かしたテーマの作品など、より地元愛を感じる素敵な作品を是非今後も見せて頂きたいと思います。